最近同じ日に、2つのホームページで、申請書と添付書類の「一体署名」についての記事が載りました。
「井の中の蛙 goo 」の「一体署名について」
「島崎司法書士・土地家屋調査士事務所」の「業務日誌「ひとことコラム」」の中の「添付情報への一体署名について(いちいち個別には必要ない、という公式文書出してください)」
これらの記事によると、法務局では、「申請書に電子署名していれば、添付書類には電子署名はいらない」旨の内部文書があるらしいのです。
もしこれが本当なら、煩わしい電子署名が1回で済みます。表示の登記では幾つものファイルを添付しますので、土地家屋調査士にとっては、まさに福音の文書ということになります。
ワタシも、前々から気にかかっていたことなので、少し検討してみることにしました。
ワタシは、今までこのことを、「複数の申請書に一度に電子署名ができる」ことと理解をしていました。
しかし、法務省が作成している申請者操作手引書では、申請書と添付ファイルと一括して電子署名ができると説明されていますので、ワタシの理解は間違っていたのでしょう。これがいわゆる「一体署名」と呼ばれるようになった機能のことです。
次に挙げるのは、今年4月にバージョンアップされた申請者操作手引書(第1.2版)の105ページに記載された電子署名に関する部分です。
「5 電子署名の付与
申請情報と添付済みの添付情報(登記識別情報関係様式を含む。)とを一体として電子署名(一体署名)を行います。」
確かにここでは、申請情報と添付書類を一体として電子署名すると書いてあります。
なお、新オンライン申請システムが稼働する前に出された申請者操作手引書(第0.9版)の106ページには、次のように記載がありますので、今回かなり自信を持って書き直されたものだと思われます。
「3 電子署名の付与
作成した申請データ(添付済みの「登記識別情報関係様式」,その他のファイル(フォルダ)を含む。)に電子署名を行います。」
しかし、素直でない(別の言い方をすれば、「邪気の多い」)ワタシは、こうも思います。
「『申請情報と添付済みの添付情報とを一体として』と書いてあるバッテン、この『添付情報』という文字の頭には『電子署名をしていない』とは書いてはなか。」
「もしかしたら、『申請情報と添付済みの電子署名をした添付情報とを一体として』というこっじゃなかろか。」
もっと素直に生きていれば、楽だろうとは思いますが・・・。
さっそく、前出の申請者操作手引書(第1.2版)97ページを見てみます。
次のように書いてあります。
「4 添付ファイル(フォルダ)の添付(削除)
(中略)
※ 登記・供託オンライン申請システムに提出可能な添付ファイルについては,登記・供託オンライン申請システムのホームページ
(https://www.touki-kyoutaku-net.moj.go.jp/cautions/append/appending.html)を参照してください。」
上のURLをクリックしてみるとわかりますが、ここで参照しろと書いてあるページは、「提出可能な添付ファイル情報」というページです。
そこには、次のように記載されています。
「登記・供託オンライン申請システムに提出可能な添付ファイルは,次のとおりです。
(中略)
不動産登記関係手続
ファイルの種類
拡張子
電子署名付きPDFファイル
外字イメージファイル(ビットマップ形式)
.bmp
(以下省略)
PDFファイルは、電子署名付きPDFファイルしか添付できないということです。
ということは、申請者操作手引書(第1.2版)の105ページに記載された電子署名に関する部分は、「電子署名付きPDFファイルを添付して、申請書と一括電子署名をする。」といっているだけです。
これは、旧オンライン申請システムでもやっていたことです。
がっかりです。
しかし、せっかく法務局でも内部文書が出ているのですから、もう少し粘ってみます。
不動産登記令には、次のように電子署名の規定があります。
(電子署名)
第十二条 電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請するときは、申請人又はその代表者若しくは代理人は、申請情報に電子署名(電子署名及び認証業務に関する法律(平成十二年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子署名をいう。以下同じ。)を行わなければならない。
2 電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請する場合における添付情報は、作成者による電子署名が行われているものでなければならない。
(表示に関する登記の添付情報の特則)
第十三条 前条第二項の規定にかかわらず、電子情報処理組織を使用する方法により表示に関する登記を申請する場合において、当該申請の添付情報(申請人又はその代表者若しくは代理人が作成したもの並びに土地所在図、地積測量図、地役権図面、建物図面及び各階平面図を除く。)が書面に記載されているときは、当該書面に記載された情報を電磁的記録に記録したものを添付情報とすることができる。この場合において、当該電磁的記録は、当該電磁的記録を作成した者による電子署名が行われているものでなければならない。
2 前項の場合において、当該申請人は、登記官が定めた相当の期間内に、登記官に当該書面を提示しなければならない。
要約すると、どの条項も、「作成者は、送信する情報に作成者の電子署名をしろ。」と言っています。
そして、現在の特例方式では、すべての電子情報を代理人が作成しますので、これは「代理人は、送信する情報に代理人の電子署名をしろ。」と言っていることになります。
しかし、どの条項を見ても、「それぞれの情報に、個別に電子署名をしろ。」とは言っていません。
ということは、これまで、ワタシたちが(ワタシだけか?)電子情報に個別に電子署名をする必要があると思いこんでいただけかもしれません。なにせ、旧オンライン申請システムで使ったできの悪い申請書作成支援ソフトでは、個別に電子署名をして、申請書に添付する−−或いは、個別にシステムに読み込む−−以外に方法が無かったのですから。
どうも、法令では個別に電子署名をすることを要求してはいないようです。
では、送信するデータはどういう作りになっているのでしょう。
データを分析することで、何かわかるかもしれません。
(1) データフォルダの中身
次の画面は、申請用総合ソフトのデータフォルダの中の、「申請案件」というフォルダの中にある一つのフォルダを開いたものです。
このフォルダの中にある「HM0501200420001.xml」というファイルが申請情報のファイル、「offerform_20110522195312_0.xml」というファイルが登記識別情報提供様式のファイルです。
そして、「電子署名無し文書.pdf」というファイルは、例えば登記原因証明情報や本人確認情報、不動産調査報告書や確認通知書などPDFファイルにした添付書類です。
ここでは、個別に電子署名はしていません。
なお、「HM0501200420001.xsl」ファイルは、申請情報の書式を決めているファイルです。
(2) RDFファイル
このフォルダの中には、ほかに「index.rdf」というファイルがあります。
このファイル、なんだかわからないファイルです。そこで、「RDFとは」で検索すると、次のような解説にヒットします。
要するに、申請情報や添付情報のファイルを新オンライン申請システムに引き渡すためのファイルといったところでしょう。
どうも、このファイルに何か仕掛けがありそうです。
では、「index.rdf」というファイルは、申請情報に電子署名をする前と、電子署名をした後では、どのような違いがあるのかを調べてみましょう。
試しに、申請用総合ソフトで同じ申請書を二つ作り、一つには電子署名をしないで、もう一つには電子署名をして保存します。そのあと、それぞれの「index.rdf」というファイルを比較してみます。
そうすると、前者は申請情報に関するデータだけが記載され、後者はこの前者の情報と全く同じものに、電子署名の情報が加わっていることがわかります。
このとき、二つの申請情報ファイルは全く同じ内容ですし、電子署名をしても、作成したときと全く変化がありません。
つまり、「index.rdf」というファイルは、新オンライン申請システムに送信するファイルを特定し、かつ電子署名をすることにより、このファイルにだけ電子署名の内容が埋め込まるということになります。
(3) 「index.rdf」ファイルの分析
そこで、「(1) データフォルダの中身」で紹介したフォルダの中の「index.rdf」ファイルを、開いてみましょう。
次のような内容が記載されています。(画像をクリックすると、PDFファイルが開きます。)
ワタシも詳しくはわかりませんが、「index.rdf」ファイルの初めの部分には、送信されるファイルが記載されているようです。
これを上から順番に見てみると、一つめの「HM0501200420001.xml」は申請情報のファイルで、二つめの「offerform_20110522195312_0.xml」は登記識別情報提供様式のファイルです。
三つめのファイルは「電子署名無し文書.pdf」というファイルが、アスキー文字で表記されています。2行下に漢字でタイトルが出ていますので、間違いありません。
要するに、これらは「(1) データフォルダの中身」で紹介したフォルダの中にある申請情報と添付書類のことです。
そして、下の方の赤枠で囲んだところが、電子署名の部分です。
上の部分を拡大してみましょう。
ここにも、「HM0501200420001.xml」と「offerform_20110522195312_0.xml」、「電子署名無し文書.pdf」の各ファイルが記載されています。
ということは、これらのファイルのすべてに対して、まとめて電子署名がなされたということでしょう。
即ち、申請情報に電子署名をすれば、これに添付された他の添付書類にも、同じ電子署名がされるということがわかります。
5.結論
以上のことから、申請代理人に作成権限がある添付情報については、電子署名をせずに申請情報に添付し、その後申請情報に電子署名をすれば、同時に添付情報にも電子署名がされるということになります。
その結果、申請情報に添付された添付情報は、「電子署名付きPDFファイル」になるということでしょう。
ですから、法務局の内部文書は正しいのです。
なぜ、法務局がワタシたち代理人に対して、これを公開しないのかが不思議です。
自信を持って、情報公開ばしてはいよ。
なお、「一体署名」は、申請代理人に作成権限のない情報については適用はありません。
また、地積測量図や建物図面は、電子署名の方法が異なりますので、適用はありません。